療法的園芸(Therapeutic Horticulture, TH)とは?
緑や自然が私たち人間に与える影響は、非常に幅広いものがあります。
現代の都市化が進む中、自然との接触が減少しつつありますが、自然は私たちが生きるための空気や食料を与えてくれるだけでなく、身体的・精神的にも必要不可欠な存在です。
1. 園芸療法と療法的園芸の違い
園芸好きな方なら「園芸療法」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。園芸療法(Horticultural Therapy, HT)は、それぞれの目標に基づいた療法の一部であり、専門的に設計されたプログラムの中で、園芸活動が治療の手段として行われるものです。主に医療施設やリハビリセンター・高齢者施設などで行われており、少しずつですが日本でも取り入れる施設が増えてきています。
一方、療法的園芸(Therapeutic Horticulture, TH)は、より幅広い意味をもちます。これは治療だけを目的としたものではなく、自然と人との間にポジティブなつながりをつくる事により、健康を促進し、癒しを提供するものです。これは園芸という身体を使った活動だけでなく、見るだけ・感じるだけでも癒しを得ることができるといういわゆる受動的なものも含めた概念であり、生活の質を向上させるために幅広く活用されています。療法的園芸は今、アメリカ・イギリス・オーストラリアを中心に園芸学、心理学、作業療法、リハビリテーション科学などの分野で学ばれています。まだ日本ではあまり知られていないため、弊社では「療法的園芸」と訳しています。
2. 自然が心身に与える影響
自然環境には、心身のバランスを整える効果がたくさんあります。以下にいくつかご紹介します。
-医療現場での効果:自然の景色を見ていた患者の方が治癒が早く、合併症も少なく、投薬量も少なかった
【Ulrich ,1984】
-集中力と認知機能の向上:自然のある環境で過ごすと注意力が回復し、集中しやすくなる(注意回復理論)
- 健康への影響:自然の写真を見るだけで血圧と心拍数が下がる
-幸福感:自然を眺めることのできるオフィスワーカーは、仕事中でも幸福を感じ健康的であった
【Kaplan & Kaplan, 1989】
これはほんの一部になりますが、他にもストレスホルモンであるコルチゾールの低下や睡眠、メンタルヘルスにも効果があることが研究で明らかにされています。
またそれだけでなく、コミュニケーションの場として有効であるなどいろいろな研究がおこなわれています。
3. なぜ庭のデザインが重要なのか?
これだけを聞くと、木を適当に植えればいいのではないか?と思われるかもしれません。ですが、植物にはそれぞれの性質や合う・合わない環境があり、木を1本選ぶのにも知識がいります。とりあえず選んでみたあとに、思ったより広がってしまい後悔して切ってしまう方もたくさんいらっしゃいます。木を1本選ぶのにもしっかり選定する必要があり、それが私たちの仕事です。限られたスペースを活かし、植物を適切に配置することで、快適で美しい空間を作り出すことはもちろん、建物の設計段階から庭のデザインも考慮すれば、後から造るよりもコストを抑えられることが多いです。
人は何歳であっても、どんな状態であっても、自然からの癒しをもらえることがデータとしてもわかっています。はるか昔から植物と動物は密接に繋がっており、植物なしではわたしたちは生きていくことができません。それぞれが地球や自然とのかかわり方について、改めて考えるべき時に来ているのかもしれません。